事業承継後の従業員の雇用を守るのは「DX」。M&Aに向けてDXへの投資が必要な3つの理由
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一般的に、M&Aで買収された企業では、合理化という観点から人員削減が行われるケースが珍しくありません。そのため、事業承継を検討する経営者の多くは、「大手企業に高く買ってほしい」と考える一方で、「買収後も従業員の雇用を確保したい」とも思っています。では、継続的に従業員の雇用を守るために、企業はどのような準備をすべきなのでしょうか。
そこで今回は、M&Aで買収された企業の雇用が守られにくい背景や、従業員の雇用を守るために必要な対策について解説します。
目次
M&A後、買収された企業の雇用が守られにくい背景とは
買収された企業の雇用が守られにくい背景として、M&Aでは、部門の統廃合によるコストメリットを出そうとするのが一般的です。特に、経理や人事といった「間接部門」と呼ばれる組織は、機能が重複しているために人員削減の対象になりやすいという傾向があります。もちろん、間接部門だけが人員削減の対象になるわけではありません。直接部門と呼ばれる営業でも、パイプラインだけ紹介してもらったら、その後は人員削減の対象ということもゼロではないでしょう。
こうしたM&Aの前提に加えて、買収した企業と業務フローやオペレーションが全く合わず、買収された企業の従業員が変化に対応できないという理由も挙げられます。例えば、紙文化が残っていて顧客とのやり取りにFAXを使っているといった、極めてアナログな仕事の進め方をしているケースです。特に大手企業や成長企業の多くがDXを導入しているため、買収を希望している場合はデジタル対応ができるかどうかが問われるでしょう。また、独自の仕事の進め方をしているために買収した企業が求めるスキルが不足しており、パフォーマンスが低いという理由も考えられます。
アナログな業務フローや従業員がスキル不足の状態でM&Aを実行した場合、絶好のコストカットの機会になり得ると言えるでしょう。
従業員の雇用を守るためにDXを推進する3つの理由
では、事業承継後も従業員の雇用を守るためにはどうすれば良いのでしょうか。
買収した企業で人員削減の対象にならないためには、DXを推進して従業員の人材価値を高めることが極めて重要です。DX推進が雇用に直結する3つの理由を解説します。
●DXが浸透している企業がPMIをリードできる
従来のM&Aでは、買収された企業が買収した企業のやり方に合わせるのが一般的でした。しかし、最近の潮流では、DXが進んでいる企業の場合、買収する企業が買収された企業の進め方を参考にするというケースが出始めています。なぜなら、大手企業は従業員数が多いために、DXを企業全体に浸透させることが難しいという構造的な問題を抱えているからです。一方で、中小規模の企業は従業員数が少ないためにDXが進めやすく、間接部門を含めて効率的で生産性が高いオペレーションを推進することが可能です。
PMI(Post Merger Integration:合併後の統合プロセス)では、業務システムやオペレーションの統合が図られますが、買収された企業がDX化していれば主導権を持ってPMIを進めることができます。結果として、従業員の雇用や職場におけるポジションが守られる可能性が高まるでしょう。
●DXの知見は部門を超えて活かせるため、配置換えも期待できる
デジタル人材は企業で大変重宝されるため、コスト削減を求められやすい間接部門だとしても、別部門に異動できる可能性が高いでしょう。近年は大手企業を中心にデジタル人材が不足しており、どの企業も獲得・育成に苦戦しています。一方、中小企業はDXのPDCAを高速で回しやすいという強みがあります。例えば1万人規模の企業と100人規模の企業で比べた場合、後者は小回りが利くためトライアンドエラーを素早く積み重ねられます。実践を通じて実務的な学びを得ているデジタル人材は、買収した企業でも必要とされ、様々な部門への配置換えによって雇用維持が期待できるでしょう。
●デジタル人材は企業ニーズが高いため、転職もしやすい
万が一、買収後に人員削減の対象になったとしても、デジタル人材は「転職がしやすい」という利点があります。どの企業でもデジタル人材が不足している状況で、社内のDXを牽引した経験を持つ人材は、転職活動でもニーズが高く、転職後も能力を発揮しやすいと言えるでしょう。実際に、GLナビゲーションでもデジタル活用の経験を持っている人材は、入社後もDXのコンサルタントとして活躍しています。
事業承継に向けてDXを推進するメリットとして、「事業承継ができなかったとしても社内に引き渡しやすくなる」「社員のモチベーションアップやキャリアアップに繋がる」「企業価値が高まりバリューアップする」という3つが挙げられますが、DXは従業員の人材価値も高めるため、結果として事業承継後の雇用を守ることができるでしょう。
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事業承継を考える企業にとって「DX推進」への投資が極めて重要な理由
DX導入を成功させる3つのポイント
では、事業承継を見据えてDXを導入する場合、どのように進めれば良いのでしょうか。DX導入を成功させる3つのポイントを解説します。
その1:デファクトスタンダードのツールを導入し従業員の市場価値向上に繋げる
DX推進の手段として重要なのは、デファクトスタンダードのツールを導入するということです。主に中小企業で、コストを優先してマイナーなツールを導入しているケースが少なくありませんが、従業員が勉強して操作スキルを身につけても、スタンダードではないために経験・スキルが無駄になりやすいというデメリットがあります。汎用的なスキルを身につけるために大手企業をはじめ様々な企業で導入されているデファクトスタンダードのツールを導入し、従業員にツールの知識を習得することで自身の市場価値が上がることを知らせることで、自律的に学んでもらう必要があるでしょう。
その2:改善を続け、変化に適応できる風土作りや人材育成を行う
目安として、中小企業なら6カ月もあれば、従業員をデジタル人材として育成できます。ただし、DXとは「これができればDX」という性質のものではなく、常に変化する風土や仕組みを作り続けるというプロセスが重要です。
そのため、ー試行錯誤の数がDXにおける人材育成のポイントです。小規模な組織であるほど運用改善を行い、試行錯誤をしてオペレーションを変化させ、変化に適応できる風土作りや人材育成を行いましょう。
その3:ツール構築はなるべく内製し戦略はコンサルタントに依頼する
DXの導入・推進には、DXのプロである外部コンサルタントに相談することもポイントです。DXに向けてツールを導入する際には「ツールを活用した業務改革の戦略を立てる」、「デジタルツールを導入し構築する」という2つのプロセスがありますが、DXを始める企業の多くが、戦略立案ではなくツールの構築に投資してしまう傾向があります。
「ITに詳しくないしツールの構築はプロにお願いしよう」と考え、独自のアイディアやビジョンを形にするためにベンダーに依頼する企業が多いのですが、実際は逆で、戦略を外注化して、ツール構築を内製化した方が成功する可能性が高くなります。現在はノーコードツールが増えているため、構築に必要とされるスキルのハードルは低くなっています。そのため、ツール活用のベストプラクティスについて知見を持つコンサルタントに業務改革の企画を立案させることで、複雑なカスタマイズを必要としないツールの活用方針をつくることができます。
また、システムを全社で統一して活用するためのグランドデザインが整備されていない状態で構築を始めてしまうと、部門ごとにデータが分散したり、活用方法がガラパゴス化し運用工数が増大するリスクがあります。。ツール活用の戦略立案や、導入後の運用改善まで見据えて全体設計できる、経験豊富なDXコンサルタントに依頼することが大切です。
「従業員の変化を促す」点でも、外部コンサルタントの活用がお勧め
DX導入に外部のコンサルタントに相談するメリットは、戦略立案が的確であることに加えて、従業員に対して客観的な指摘ができる点が挙げられます。DXを導入・推進する際に、デジタルツールの導入やオペレーションの変化に抵抗感を覚える従業員は少なくありません。社歴が長いメンバーやマネジメント層がデジタルに明るくない場合、指導がしにくいために導入が進まないこともあるでしょう。
その点、外部コンサルタントは社内のしがらみがないため、指導しやすいのが強みです。特に最近は、DXの専門知識だけでなく、気づきを与えるコーチングのような役割が求められています。いくらコンサルタントが専門知識を武器に戦略的なアドバイスをしたとしても、実際にツールを使う従業員やマネジメント層が変わらなければ、真のDXは実現できないからです。
そのため、戦略設計のアドバイスだけでなく、従業員の考えや行動を変えるための示唆を提供しながらサポートしてもらえるコンサルタントを選ぶと良いでしょう。
なお、GLナビゲーションは、創業以来培ってきた人材育成のメソッドを社会のデジタル化に活かすために、DXコンサルティングサービスを展開しています。「人を変え 企業を変革し 社会を変える」というミッションを掲げて、「人」と向き合い、変化と進化を促しています。もしDX導入をご検討されている場合は、ぜひGLナビゲーションにご相談ください。
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