コストをかけずに優秀な人材を採用できる「タレントプール」の活用法
生産年齢人口の減少を背景として、優秀な人材の採用は企業間で競争となっています。従来の採用手法だけでは人材確保が難しいため、選考辞退や内定辞退となった人材を「タレントプール」に蓄積し、接点を保つことで採用に結びつける企業が増えているようです。
今回は、タレントプールのメリットやナーチャリングのポイント、導入の進め方や向いている企業について解説します。
目次
「タレントプール」とは?
GLナビゲーションの提唱するタレントプールとは、過去に応募し辞退した方者、や何らかの接点があった方を、「将来の採用候補者」として候補者データベースに蓄積し、継続的にコミュニケーションを図る採用手法を指します。一般的な採用活動では、求人広告や人材紹介会社、スカウトを通じて応募してくれた方を選考するというプロセスですが、応募から内定まではワンウェイで、入社しなかった方とは一期一会になっていました。
タレントプールを活用すると、従来の採用活動が終わった後も定期的に接点を持ち、ロングタームでアプローチします。従来の採用活動は1~2ヶ月程度の短いタームであるのに対して、タレントプールを活用した採用活動はロングタームで年単位に及ぶという違いがあります。また、従来の採用活動は一時的に母集団を形成して選考しますが、タレントプールは採用候補者が積み上がっていくという違いもあります。
タレントプールを活用する2つのメリット
タレントプールのメリットの1つは、「採用コストを大きく抑えられる」ことです。タレントプールは、基本的に従来の採用チャネルで辞退された方をデータベース化します。新規の応募者を増やすために求人広告を出す、人材紹介会社に依頼する、スカウトを送るといった従来の採用手法ではありません。データベースに蓄積された人材にアプローチするため、特別なコストをかけなくても人材を採用できるというメリットがあります。
もう1つは、「優秀な人を採用しやすい」というメリットです。一般的に、優秀な人材は転職市場になかなか現れず、彼らが転職を検討するタイミングをキャッチするのも難しいという課題があります。従来の採用活動は、「自分たちが募集したいタイミングにターゲットがたまたま転職活動をしていて、興味を持ってもらえたら採用できる」という偶然の要素が大きいものでした。従業員に友人・知人を紹介してもらう「リファラル採用」も、声をかけたタイミングで、相手が転職先の企業を探しているとは限りません。しかし、タレントプールを活用して中長期的に接点を持っていると、「ちょうど今辞めるかどうか考えていた」「転職活動を始めようと思っていた」というタイミングを掴めるため、転職市場で顕在化していない優秀な人材の最初の応募先になることができます。
また、従来の採用活動は応募から内定までの期間が短く、長くても数カ月程度です。短期間で転職先を決めなければならないため、企業規模などの軸を重視し、当社のようなベンチャー企業よりも大手企業を選ばれる傾向があります。しかし、時間をかけてコミュニケーションを図ると、通常の転職活動とは得られる情報量が異なるため、安心して選択してもらえるようになります。お互いによく知らないまま短期間で選考を進めるとミスマッチが起こりやすくなりますが、双方の理解が深まっている状態で選考するので、内定承諾率も入社後のパフォーマンスも高くなります。実際に、GLナビゲーションではマネジャーやリーダークラスの採用のうち、約3割はタレントプールからの入社となっています。
タレントプールを活用したナーチャリングのポイント
タレントプールの考え方は、営業活動における「ナーチャリング」によく似ています。ナーチャリングというプロセスは、Webサイトの閲覧やメールの開封など、ターゲットの行動をスコアリングして中長期的にアプローチしますが、タレントプールでも同様の取り組みを行います。
ただし、採用活動のナーチャリングを行う場合は、「当社に応募しませんか?」というホットコンテンツを送るのではなく、コールドコンテンツである「企業の近況報告」にフォーカスすることが重要です。コールドコンテンツは4半期に1~2回程度を目安にして、直近のプレスリリースや取材実績などを通じて幅広く企業の状況をお伝えします。
一方、ホットコンテンツを提供する場合は、相手が具体的な仕事内容をイメージできるように、職種やポジション、募集の背景なども記載しましょう。「○○様に□□に関わる業務で、△△をお任せしたいのですが、詳しくお話できる機会をいただけませんか?」と具体的に伝えた方がアクションしやすくなります。ホットコンテンツは実際に人材ニーズが発生した時に、スポットで連絡するようにしましょう。
なお、GLナビゲーションでは、内定後にで辞退された方に対して、必ず面談で「また機会があれば応募して下さい」とご挨拶するようにしています。辞退する方の心理として、「内定を断った」という心苦しさ感じている方も多く、内定辞退した企業に再応募するという発想に至らないケースもあります。内定を辞退したことによって、二度と応募企業と接点を持てないのは、未来の機会損失とも言えるでしょう。辞退しても再応募可能であることや、企業からのお知らせをメールで送る旨を伝えることで、メリットを感じていただくようにしています。
また、転職活動の意思決定には不安がつきものです。再応募できる企業の候補を持っていることは、辞退された方のキャリア選択の安心材料にもなるでしょう。
タレントプールにはナーチャリングが得意なツールを選ぶ
タレントプールを構築する場合は、人事向けの既存のタレントマネジメントシステムや採用管理システム(ATS)をイメージされる方も多いかもしれませんが、SalesforceやMarketoなどのCRMやMAツールがお勧めです。既存のタレントマネジメントシステムやATSはスコアリング機能が十分ではないケースもあり、人事業務に特化しているためマーケティング活動には向いていません。一方、CRMやMAツールはスコアリングが標準機能になっており、ナーチャリングやデータ分析も得意です。
機能面だけでなく、CRMやMAツールを活用した方が、人事担当者のキャリアの幅が広がり、デジタル人材として育成しやすくなるという利点もあります。タレントマネジメントシステムやATSのスキルは人事のキャリアに限定されますが、CRMやMAツールであれば営業やマーケティングなど他部門でも活かせるスキルセットになります。また、複数のツールを導入すると、システムの連携ができずに個別最適になり、「サイロ化」が生じます。デジタル人材を育成しサイロ化を防ぐために、社内のプラットフォームは統一した方が利点は大きいと言えるでしょう。
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タレントプール構築の進め方と注意点
DXの大前提は、システムに合わせて業務を組み込むことです。タレントプール導入で重要なのは、タレントプールで何ができるのかを把握し、システムに合わせて業務を組み、採用戦略を立てるというステップです。
SalesforceやMarketoの構築を難しく感じている方も多いようですが、どちらもノーコードツールなので、基礎を理解していれば構築自体はそれほど難しくありません。コストをかけてシステム構築を外注するよりも、デジタル人材の育成やシステムの知見を深めるために、可能な範囲で内製化しましょう。
また、システム構築よりも、採用課題に合わせてシステム設計を行い、システムに合わせて業務を変える方が難易度は高くなります。タレントプール導入の際は、システム構築が得意な企業よりも、構築方法を教えてくれて、サイロ化やセキュリティ面の脆弱性などをケアし、トレーニングしてくれるベンダーやコンサルティング企業を選びましょう。
タレントプール活用が向いている企業
タレントプールの導入が効果を発揮する企業と、そうでない企業があります。
まず、中長期的に採用ニーズが発生しやすい職種はナーチャリングがしやすくなります。特定の職種で何名も採用する企業や、営業やエンジニア、コンサルタントや店舗責任者など、人材を配置することで収益が上がるビジネスでは、タレントプールによる中長期的なアプローチが有効になるでしょう。
また、希少価値の高いハイクラス人材も、タレントプール活用に向いています。ハイクラス人材は、マッチするポジションも希少です。自社の採用ニーズに合わなかったとしても、ロングタームで関係性を築いておくことで、ピンポイントのニーズが発生した時に相談しやすくなります。さらに、ハイクラス人材には類似のスキルセットを持つ人材とのつながりがある可能性が高いため、アプローチをした際に、他の人材を紹介してもらえるかもしれません。希少なスキルを持つハイクラス人材の場合は、社員という雇用形態ではなく副業・兼業でサポートしてもらうという方法もあります。希少価値が高い人材に対しては、目の前に採用にこだわらずに接点を継続することが重要です。
選考辞退率や内定辞退率が高い企業も、タレントプール活用が効果を発揮するでしょう。辞退率が高い企業は、採用プロセスに課題がある可能性もありますが、採用目標を達成するためにクロージングで無理をするケースも多いようです。無理なクロージングは入社後のミスマッチや企業イメージの毀損につながります。タレントプールを活用して中長期的にアプローチすることで、好印象を与えながら採用のミスマッチを減らすことができるでしょう。
最後に
従来の採用担当者は、コミュニケーションが達者で言葉巧みに応募者の気持ちを掴み、入社に結びつけられる人が評価される傾向がありました。これは、顧客の気持ちを掴んで受注を獲得すると評価される営業も同様です。でも、「話術を駆使して相手の気持ちを掴む」というスキルは限られた人しか発揮できず、キャリアにも限界があります。属人的なスキルに依存するよりも、デジタルの力を活用すれば、誰もが成果を出しやすく、人材としての市場価値を高めることができます。
タレントプールを採用に活かし、コストダウンや優秀な人材の確保、成果を出せるデジタル人材の育成を目指しましょう。